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プロジェクトC
プロジェクトD

プロジェクトD
ランダムネスの創発
担当者:西脇(哲学・倫理学)、坂上(心理学)、浜野(文学研究科特別研究教員)
確率をめぐる哲学と心理学

  文学研究科 西脇与作・社会学研究科 坂上貴之 現代の哲学や心理学において、確率という概念は主要な役割を担っている。一方では、諸学問において広く使用されるに至った確率概念の意義を解明することは、哲学的に重要な課題である。また他方、心理学においては確率・統計が信頼に足る道具として使用されることが多いが、その基礎となる確率概念の検討は無視のできないものである。本プロジェクトは確率・統計、情報、エントロピー、ベイズ推論などの現代科学及び哲学に不可欠な概念を中心に、科学哲学と行動分析学の対話を試みることを念頭に始められた。 2006年度前期には、科学哲学と行動分析学の各分野における確率概念の扱われ方、及びお互いの学の紹介を兼ねた議論が重ねられた。科学哲学からは量子力学により導入された確率的世界観や、集団遺伝学及び統計力学に導入された情報という観点などが紹介され、その問題設定が「確率解釈」もしくは「ランダムネスの意義」にあることが示されてきた。一方、行動分析学からは、行動分析学における研究技法や心理学一般で興味のもたれている確率的現象と確率過程モデルの紹介、行動の変動性や確実性等価に関わる実験的研究などが紹介され、その問題設定が「ランダムな行動の形成」や「ランダムネスの測度」、もしくは「確率的現象への行動的特性」に関心があることが示された。前期の報告会においては心理学側からは確率判断の研究や、ランダム行動を生成するための方法論の紹介が行われ、哲学側からは行動分析学についてのランダムネスの解釈や、同学において使用されるべき確率概念などの演題の下に報告を行った。 確率という共通概念の下に進められるプロジェクトとはいえ、実際には学問間における問題設定の相違や用語の意味の違いなど、共通の理解を得るための多くの溝を実感することから出発したといえる。しかしながら、哲学と行動分析学の両分野の研究を理解するにしたがい、専攻分野の研究へのみ目を向けていたのでは得ることのできない視点に触れることができた。このような学際的な研究機会を得られたことは、教育的意義が大きいだけでなく、今後の研究を発展させる上でも非常に有意義である。


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